茨城「奥久慈男体山」岩稜と展望を楽しむ紅葉の里山

日本の山

みなさんは「水郡線」をご存じですか?

茨城県水戸市と福島県郡山市を結ぶ、全長137kmの長さを持つローカル線です。「奥久慈清流ライン」という愛称をもっているこの列車は、一日に下り6本、上りが5本しかありません。

そんなひなびた単線の列車に乗って今回訪れたのが「奥久慈男体山」です。
標高は653mと決して高くはない里山ですが、茨城県大子町にあるこの男体山は、岸壁と紅葉の美しい山として「知る人ぞ知る名山」です。

山間の狭い生活道路をくねくねと上ると、圧倒的な迫力でその山肌を現す奥久慈男体山。

その魅力について、みなさんにご紹介していきます。どうか最後までお付き合い下さい。

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奥久慈男体山に至るプロムナード

出典:ヤマプラ

難易度日帰り・初心者向き歩行距離10.8km
コースタイム2時間30山頂の標高653m

(「一般コース」)
西金駅 ⇒70分⇒ 大円地駐車場 ⇒10分⇒ 古分屋敷 ⇒5分⇒ 一般コース分岐
⇒35分⇒ 大円地越休憩所 ⇒35分⇒ 男体山山頂 ⇒20分⇒ 大円地越休憩所 ⇒30分⇒ 古分屋敷 ⇒15分⇒ 大円地駐車場 ⇒60分⇒ 西金駅

 

奥久慈男体山はもともと山岳信仰の山です。そのため古くから近在の村人によって崇められ、大切に守られてきました。現在でも、山頂に至るいくつかの登山道は丁寧に整備され、訪れる登山者の安全に十分な配慮がなされています。

さて、この男体山がある茨城県久慈郡大子町は、久慈川の清流が町の中心部を流れるひなびた田舎町です。東京からおよそ170km、大子温泉をはじめとしていくつかの温泉や鉱泉宿を抱える茨城の秘境と言える場所でもあります。

男体山にアプローチするにはマイカーを使うのが一番便利ですが、せっかく「秘境」を楽しむのであれば、ぜひローカル列車「水郡線」に乗ってみて下さい。
少し前に朝の連続ドラマ「ひよっこ」の舞台にもなった常陸太田市を通過して、さらに奥地に向かう列車です。従って、そのローカル度はみなさんにも容易に想像がつくことでしょう。
では、ご案内を始めます。

①  水郡線に揺られて奥久慈男体山へ

JR水戸線に揺られて常陸路を一路北上します。やがて、茨城県庁のある水戸駅で水郡線に乗りかえます。
水郡線は一日数本しか運行していませんので、乗車する時間の確認だけはしっかり行って下さい。

列車はのどかな田園地帯をのんびり通り過ぎ、久慈川の澄んだ流れに沿って進んでいきます。すると、ようやく下車する「西金駅」に到着します。

ここに前もってタクシーを呼んでおくこともできますが、山岳信仰と秘境の雰囲気を楽しむためにもあえて歩いて登山口を目指して下さい。男体山の登山口までは約1時間弱で到着します。
渓流沿いに設けられた狭い車道を緩やかに登っていくと、山肌の狭い土地にぽつんぽつんと民家が点在しています。

どの家も、庭のすぐ下は崖か斜面になっています。山間部の限られた土地に数軒ずつ民家が寄り添うように建てられ、ここが茨城の最奥部の集落であることを実感させられます。
やがて、車道の傾斜が緩やかになって、谷底がだいぶ下の方に見え始めると、そこが「大円地(おおえんじ)駐車場」です。

谷底に続く明るい斜面には、朱色のトタン葺きの民家が張り付くように建っています。周りは一面の段々畑。その周りを囲むように奥久慈の山並みの大パノラマをのぞかせてくれます。
特に、目の前に見える「篭岩」の屹立した大岸壁が、すぐ手に取れるような迫力で迫ってきます。その一番左端にあるのが、これから目指す男体山です。

山頂部から麓まで険しい山肌が一面覆っており、初めてここを訪れた登山者は、「この山のどこを登っていけば山頂に立てるのか」と、少々不安に駆られることでしょう。それほど目の前の岩壁は、標高以上に荒々しく感じるはずです。

いよいよここから男体山の登山が始まります。

②  山頂に至る「一般コース」と「健脚コース」

かつて奥久慈男体山は、30年前以上昔に開催された「茨城国体」でいったん整備され、いまもその名残とも言うべき登山道が残っています。それがこの一般コースと健脚コースです。
いずれのコースもよく整備された登山道ですが、ここは迷わず「一般コース」を選択して下さい。
その理由は以下の通りです。

・ 登り初めから、いきなり急傾斜の断崖です。鎖がついてますが、これは補助ではありません。鎖がないと絶対登り切れません。その鎖が山頂直下まで何度も続きます。ヤワな方や高齢者に登りは無理です。
・ 要所要所に鎖の固定を強めるためワイヤーが巻かれています。しかし、これを素手でさわるとざっくり指を切ります。(経験者が言うので間違いありません。)最低でも軍手程度の手袋がないと、危なくて鎖にすがることもできません。
・ 足場になる岩棚が狭くて、非常に危険です。登り始めたら途中で休憩する場所もほとんどありません。途中で引き返そうとするのは、登ることよりもさらに危険です。
岩場にはこけや泥が残っています。快晴の日が続いた後などは、一応安心して登ることもできますが、雨が降った後や積雪期は、よほどの経験者で無い限りこのコースを通ってはいけません。

健脚コースの危険性については以上です。ただし、特に積雪のあった後にこの健脚コースを下りで使うことは避けて下さい。

茨城県は比較的温暖な地域なので、降雪することはめったにありません。
ただし、そうは言っても隣の県である栃木県那須岳と緯度はほぼ同じです。関東平野が冷え込む時など、山間部の大子町では雪になることは珍しいことではないのです。
底冷えのする夕方や小雨交じりの天気は、すぐにみぞれから本降りの雪に変わります。そんな日には男体山山頂部はすっぽり雪に覆われてしまい、あたかも雪山の様相を呈します。

しかも、雪をかぶった秘境奥久慈の山並みが、また何とも絶景なのです。そのため積雪があると必ずその様子を写真に撮ろうとマニアが男体山に入山します。その一部の人が、なぜか山頂からうかつにも健脚コースに足を踏み入れてしまうようです。

その登山者がその後どうなるかは、みなさんにも想像がつくことでしょう。下山中に凍えて氷った岩場で滑ったのか、それとも鎖場の鎖が何の役にも立たなかったのかは分かりません。ただ、毎年何人もの尊い命がこの岩場で失われていることだけは事実です。

みすみす一つしかない命を、わざわざ危険にさらす必要もないと私は思うのですが。

③ 一般コースの魅力と注意点

一般コースとは言っても、「一般的」なのは登り初めだけです。すぐに杉木立に囲まれた眺望のほとんどない、薄暗いじめじめとした急勾配をひたすら登り続けなければならないからです。

何はともあれ、まず一般コースに足を踏み入れましょう。すぐ目の前に古民家が現れます。
この古分屋敷(こぶやしき)と呼ばれている古い民家の裏手に、ススキの中をたどるメルヘンチックな散歩道がしばらく続きます。奥久慈らしいエキゾチックな風情さえ感じられ、思いっきり郷愁に浸ることでしょう。

けれど、その感慨もつかの間です。いよいよ一般ルートの本領発揮です。
とは言うものの安心して下さい。ここは北アルプスの剱岳や槍ヶ岳ではありません。茨城の秘境、奥久慈男体山です。
そんなに激しすぎる危険な登りや岩場は皆無です。

さて、一般ルートの魅力とその注意点を、以下に列挙します。

(一般ルートの魅力)
・ 峠の休憩地点である「大円地越」までは薄暗い杉木立の急登が続きますが、キツい登りはそこでおしまいです。その後ひと登りすれば、広葉樹林の稜線を緩やかに歩き続けることができます。
・ 茨城県の標高700mにも満たない低山ですが、紅葉の美しさは絶品です。真っ赤なモミジ、ツタやウルシの朱色に黄色に染まったカエデや落葉樹が、11月初旬の稜線を埋め尽くしています。一眼レフのカメラを首からぶら下げているマニアが多いことからも、想像がつくでしょう。
山頂から見渡す360度の大パノラマに見惚れます。柔らかな晩秋の日差しに辺り一体の山々や木々が、ぼんやり陽ざしを浴びて浮かび上がっています。眺望ははるか那須連山を望み、左手には太平洋の海原が遠く青く光っています。
こんなに気持ちを和ませ、穏やかにしてくれる山頂は他に見当たりません。

(一般ルートの注意点)
・ 大円地越休憩所からひと登りすると、紅葉の稜線に出ることができます。ここから山頂まで快適な稜線歩きができますが、途中何カ所か南側がスッパリ切れ落ちている場所があります。特に南面の眺望が良くなってきたら要注意。登山道脇の草が深くなっている場所に、一カ所切れ落ちている場所があります。
・ また、同様に山頂直下の場所に小高い岩場があります。左側は切れ落ちており、登る時よりも下る時に注意して下さい。登りの人とすれ違う時には岩場の手前で待つか、山側(左側)に待避して下さい。間違っても崖側で登りの人を避けようとすると、そのまま数十メートル谷底へ転落してしまいます。

男体山周辺のおすすめ情報

1 奥久慈のいで湯と日帰り入浴

男体山から下山したら、ぜひ奥久慈の名湯「大子温泉」に立ち寄って一汗流しましょう。ホテルや旅館の日帰り入浴も可能ですが、ここはぜひ地元では有名な町営温泉保養センター「森林の温泉(もりのいでゆ)」まで足を伸ばしましょう。広々とした内湯と大露天風呂、気泡風呂やサウナまで完備。透明ないで湯に浸かって山旅の疲れを癒やして下さい。

【基本データ】
施 設 名:大子町温泉保養センター 森林の温泉(もりのいでゆ)
住  所:久慈郡大子町矢田15-12
電  話:0295-72-3200
営業時間:10時~20時(毎月第1.第3月曜日 12/31 1/1)
料  金:大人(平日700円 土日・祝日1,000円)(小人350円 土日祝日500円)
17時以降(大人500円 小人250円)

2 「にほんの里100選」の安寺・持方集落

奥久慈男体山に登山したついでにぜひ立ち寄ってみたいのが「にほんの里100選」に選ばれた持方(もちかた)集落です。
持方集落は隣村の安寺(あでら)集落と合わせて、茨城県で最もひなびた場所として有名な集落です。通称「安寺・持方(あでら・もちかた)集落」として民話や伝説の宝庫でもあります。
この山村の昔話は通称「安寺・持方話」という笑い話としても大変有名です。

実は男体山に登った時、大円地越休憩所や稜線の北端から向かいに小さく見えるのが安寺・持方の集落です。山あいにある極めて小さな集落ですが、ぜひ立ち寄ってみて下さい。
二つの集落に向かうには、武生(たきゅう)林道を経由して走りにくく道幅の狭い林道をたどらなければなりません。でも、行ってみるだけの価値のある風景を楽しむことができます。ぜひお出かけ下さい。

まとめ

茨城県の最北部八溝山系に属する奥久慈男体山

標高こそさほど高くはありませんが、眺望の良さと登りごたえのある低山としてハイカーに人気の里山です。
春先の新緑が芽生える季節には、柔らかな日差しと広葉樹の息吹が楽しめます。紅葉の季節にはあでやかな木々の彩りを満喫できます。

あまり有名ではないのかもしれませんが、冬枯れの木立の美しさも見逃せません。
特に、男体山山頂から袋田の滝に続いている縦走路は、ぜひ一度歩いてみて欲しい登山コースの一つです。
この記事ではご紹介いたしませんでしたが、葉を全て落とした明るい冬木立の稜線は、まるで夢の散歩道です。ぜひあなたも一度この奥久慈男体山を訪れてみて下さい。

最後までおつきあいいただきありがとうございました。

【アクセス】
■ マイカー
常磐自動車道那珂IC下車 - 国道118号線北上 -大子町湯沢入口右折 - 大円地駐車場下車
(大円地駐車場)駐車台数10台 料金:無料 トイレ:有
■ 列車
JR常磐線水戸駅下車 - 水郡線各駅停車常陸大子行乗車 -(57分)- 西金駅下車
(タクシー)茨城交通株式会社 電話0120-055-0867

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